<平成8年度 研究報告書より>


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主題:見通しを持ち,論理的に考察する力を育てる学習指導法の研究(その2)

副主題:図形の性質を証明する場面での学習ソフトの活用を中心に

サマリー:図形の性質を証明する学習では,課題解決に対する見通しを持ち,論理的に考察する力を養うことが大切である。そこで本研究では,図形の性質を証明する場面で,学習ソフトを活用した授業実践を行った。その結果,角度を計測したり,図形を変形したりする機能をもった学習ソフトを図形の性質を証明する場面で活用すれば,見通しを帰納的に考察することができ,論理的な考察に有効であることがわかった。


T 主題設定の理由

 社会の急激な変化の中で,家庭や学校現場にもコンピュータの普及が進んでいる。これに伴い,学校教育においては,情報の判断,選択,整理,処理能力及び新たな情報の創造,伝達能力の育成が必要となってきている。また,学習指導におけるコンピュータの利用から,生徒の主体的な学習活動の道具としての利用に移りつつある。

 数学に関して言えば,図形の動きを見ることができるシミュレーション型学習ソフトが活用されることが多い。しかし,学習の場面でコンピュータの利用を考えた場合,教師が授業で単に提示するだけでなく,生徒自身が学習の場面で,課題解決の見通しを持ちながらコンピュータを利用していく学習の展開が必要になってきている。また,情報教育の手引にも,基本的な図形の性質も考察,図形の変化・対応についての見方,考え方を育成する過程を通して,新しい情報の創造,その情報及び自己の情報の他人への伝達・発表能力の育成を図ることとある。

 中学校の図形領域の学習では,1学年の図形の基礎や空間図形,2学年の図形の合同や相似を学習した後,3学年の円の性質へとつながっていく。第3学年の目標は,直角三角形や円の性質についての理解を深め,それらを図形の性質の考察や計量に用いる能力を伸ばすとともに,図形について見通しをもって論理的に考察する能力を伸ばすことである。

 単元「円の性質」では,これまで学習した図形の基本的性質や図形の証明等を通して,円と多角形を組み合わせた図形を取り扱う。このとき図形の性質を証明する場面で,定規やコンパスでの作図を利用する。しかしながら,その図から連動して変化する動きを想像できにくい生徒は,変化を確認できないまま学習を進めていくことになってしまう。また,円と直線や多角形が相互に連動した動きを想像する必要がある。図形の連動した動きや連続して変化する動きは,コンピュータを利用すれば,見ることができ,生徒の思考を支援することができると考える。

 昨年度は,基本図形の性質の確認をするために多角形の内角の和の公式を導き出す場面に問題解決型ソフトを活用した授業実践を行った。生徒は,コンパス・定規の代わりにコンピュータを利用することによって,効率的に図形を調べることができた。そして,角度を表示させながら図形の変形を行うことで,課題把握ができ,見通しを持ちやすくなった。また,予想を確かめ,考察する場面に活用することによって,論理的に考察する力を高めることができることがわかった。図形の連動した動きや連続した動きを確認することができれば,論理的思考力が必要になる図形の証明へと思考を進めやすくなる。

 見通しを持つことを重点に研究を進めた昨年度に対し,本年度は論理的に考察することを重点に研究を進めていくことにした。そこで,図形領域で生徒が主体的に課題解決していくための活用方法を分析し,学習ソフトの有効な活用の在り方を探る。これにより,生徒の課題解決に対する見通しを持ち,論理的に考察する力を高めて行きたい。

  U 研究の目標

 中学校数学の図形領域において,見通しを持ち,論理的に考察する力を育てるため,図形の性質を証明する場面での学習ソフトの活用の在り方を明らかにする。

  V 研究の仮説

 中学校第3学年「円の性質」において,図形の性質を証明する学習で,帰納的・演繹的な思考が必要な場面で効果的な学習ソフトの活用方法を明らかにすれば,生徒が課題に対し見通しを持ち易くなり,論理的に考察する力を育てることができるであろう。