<平成7年度 研究報告書より>


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主題:見通しを持ち,論理的に考察する力を育てる学習指導法の研究

副主題:図形領域における問題解決型ソフトの活用を通して

サマリー:中学校の図形の学習では,操作や実験などを通して,直観的な見方や考え方を深めるとともに,論理的に考察する基礎を培うことが大切である。そこで本研究では,生徒が図形の基本性質を考察する場面に問題解決型ソフトを活用した授業実践を行った。その結果,作図することができ,計測や図形を変形する機能を持った学習ソフトを活用すれば,生徒の課題に対する見通しを持ち易くさせ,論理的に考察する力を育てることに有効であることがわかった。


T 主題設定の理由

 中学校学習指導要領の算数・数学における改善の基本方針に,「情報化などの社会の変化に対応し,論理的な思考力や直観力の育成を重視する観点から,様々な事象を考察する際に,見通しをもち,筋道をたてて考え,数理的に処理する能力と態度の育成を一層充実するようにする。」と述べてある。 また,「図形の指導,課題学習の指導等,学習効果を高められると判断できるものについて,必要に応じて,コンピュータ等を活用するよう配慮する。」となっている。この図形領域では,図形の計量は軽減され,論証について比重が大きくなってきている。

 学習するに当たっては,図形を単に知識としてではなく,図形を学習することを通して,数学的な見方や考え方のよさを知り,それを進んで活用できることが重要になってきている。生徒は,第1学年で図形に関する操作的な活動や実験などの直観的な取り扱いを中心に,図形の基本的性質や構成について学習している。そして,第2学年の論理的な考察と論証へとつながっていく。このとき,図形を演繹的に推論する根拠となる事柄に平行線の性質や三角形の合同条件がある。これらを基にして,図形の性質を確かめながら,図形の証明をしていく。ここで,平行線と角や三角形の角及び三角形の合同(以下,「図形の基本性質」という)は,図形の考察における演繹的な推論の根拠として用いていくことになる。

 従来の授業では,推論の根拠となる図形の基本性質を確認するために,作図等の操作活動を取り入れていた。しかしながら,生徒自身が図形の基本性質を十分に調べて,確認することができないまま,これらを利用して,図形の証明をすることが多かった。このため,単に形式だけの証明になってしまい,図形の証明を苦手とする生徒も少なくない。これは,コンパスや定規等で作図をする活動だけでは,図形自体の移動や一定の条件を保つ変形等が行えず,図形の基本性質を十分に調べて,確認することができないまま,図形の基本性質の学習を終わっていることに原因があるからだと考える。

 こうした図形の移動や変形が行いにくいという問題点は,パソコンのシミュレーション型学習ソフトを活用すれば解決できる。しかし,それらは,特定の動きしかできず,学習の流れにあう操作しかできないという制限もある。これは,従来のシミュレーション型学習ソフトのほとんどが,既存の図形の変形や図形の一定の動き等を提示するようにつくられているからである。そこで,生徒一人一人が自由に図形を作図し,試行錯誤しながら動かしたり,特定の辺の長さや角度を変えず変形したりといった自由な発想が表現できる学習ソフトを活用していく。活用を通して,生徒の「図形領域の課題に対し,解決の見通しを持ち,論理的に考察する力」が育つのではないかとの仮説をもとに,本主題を設定し,これを究明することにした。

U 研究の目標

 見通しを持ち,論理的に考察する力を育てるため,中学校第2学年単元「図形の調べ方」において,問題解決型ソフトの活用の在り方とその効果を明らかにする。

V 研究の仮説

 中学校第2学年単元「図形の調べ方」において,移動や変形の特性を持った問題解決型ソフトと学習プリントを活用し,問題解決に取り組ませれば,生徒の解決に対する見通しを持ち易くさせ,論理的に考察する力を育てることができるであろう。