<平成4年度 研究報告書より>

 

主題:主体的な学習活動を支援するパソコン利用法の研究

副主題:小・中学校における学習ソフトウェアの活用を通して

サマリー:社会の情報化が進むなか、本市でも小・中学校にパソコンの整備が図られ、その効果的な利用法の研究が急務となっている。そこで、児童生徒が主体的に学習できる場を保障し、学習活動を支援するため、有効なパソコン利用法の研究を進めてきた。その結果、課題把握や追究の場面で、児童生徒の思考に対応した学習ソフトを活用させれば、主体的な学習活動を支援できることが明らかになった。


●指導の実際とその考察

(1) 中学校3年数学「2つの円」

 ア 実証単元の設定

 図形の学習は、式の計算とは違い、論証・抽象的な思考を必要とすることが多い。特に、第2学年の「図形の証明」から図形を苦手と意識する生徒が増え、授業中の意見交換もあまり見られなかった。単元「円の性質」で生徒は、論証して結論を導くより、定理や結果を覚えることになりがちであるが、実際の動きがとらえられれば、理解できる問題が多い。ここで、「2つの円」の授業において、2つの円の位置関係と、各場合の半径と中心間距離の関係を式化する問題を取り上げる。パソコンの学習ソフトにより、2つの円の位置関係の変化が具体的にとらえられれば、課題把握ができ、積極的に学習に参加できるのではないかと考えた。以上の観点から、授業の中でシミュレーション型学習ソフトを活用すれば、課題追究の場面で思考を助け、主体的な学習活動を支援し、教育効果が高まると考え本単元を設定した。

イ 本時の目標

 ○2つの円の位置関係を5つに類別し、それぞれの場合の半径r、r´の長さと中心間距離の関係を理解させる。

○パソコンを利用し、学習に対する興味関心を高め、表現能力を養う。

ウ 授業で活用した学習ソフト

(ア) 「2つの円の関係」(自作学習ソフト)

2つの円だけを表示し、矢印キーで右の小円が左右に移動する。2つの円の位置関係を類別させるために開発した。

(イ) 「半径と中心間の距離」(自作学習ソフト)

 2つの円と、解決の見通しをつけるための目盛りが入った中心線や中心間の距離を図示する。矢印キーで左右に円が移動し、必要に応じ、左右の円の半径を表示する。2つの円の半径と中心間距離の関係を式化させるために開発した。(ア)(イ)は、BASIC言語で作成し、各生徒用パソコンに配布する。

(ウ) 「2円の位置関係・半径と中心間距離」  (市販学習ソフト:東京書籍)

 2つの円と中心線が表示され、矢印キーで左右に円が移動する。必要に応じ中心間距離、半径、 関係式を表示する。ビデオプロジェクターで教室前面のスクリーンに映す。

(エ) ドリル型学習ソフト(オーサリングシステム:ラインズ教育研究所)

 本時学習内容の基本問題や前時までの問題を選択し、キー入力することにより、答えを照合していく。

 エ 学習ソフトを活用した指導の過程

 本時指導に当たっては、前に述べた学習ソフトを活用し、2つの円の位置関係とその関係式を学習プリントに沿って、主体的に追究できるように配慮した。前時の「円と直線の位置関係」を復習した後、2つの円の位置関係を類別するため、理解に応じて、学習ソフト「2つの円の関係」を見せる。このとき、類別できるまで繰り返し見せ、意見交換させながら、学習プリント(図−6)に記入させる。その後、生徒が発表する場面を設け、市販学習ソフトをビデオプロジェクターを通して、前面スクリーンに映し、説明させる。次に、学習ソフト「半径と中心間距離」により、各場合の半径と中心間距離の関係式を作らせる。このとき、内接や外接の場合から長さを測らせ、意見交換させながら関係式を考察させ、学習プリントに記入させた。その後、生徒が発表する場を設け、市販学習ソフトの中で半径、中心間距離、関係式を表示させながら、生徒に説明させる。学習プリントの記入を終えた生徒には、ドリル型学習ソフトを用い学習の定着を図る。生徒の意見交換の場面をなるべく多く設け、生徒が協力しながら、問題を解決できるようにした。また、キー操作がわからない生徒や作業の遅れている生 徒に対し、個別に指導を行った。

 オ 結果と考察

(ア) 意欲・態度面の評価

 抽出生徒の観察記録から、従来の授業では、積極的に参加していない生徒が2人で協力し、キー操作により円を動かすことで、問題解決の見通しを持ちながら学習に参加する姿が見られた。

 本時終了後のアンケート結果から,「自分で進んで授業に取り組めた」が97%で、主体的に学習に取り組めた生徒も多く、「パソコンでこれからも学習したい」も97%となっている。

 また、感想の中に、「楽しかった」「パソコンだと意欲がわく」と書いている生徒が多い。これらのことから、意欲面も高まり、主体的な学習活動が支援できたと考える。

(イ) 知識・理解面の評価

 本単元で理解しなければならない内容をもとに事前事後テストを実施し、S−P表を作成した。

 事前テストの平均正答率30.1%が事後では87.5%、また学習効果率0.69、伸び率0.80から、よく理解されたと考える。 本時終了後の感想から、内容面について、「わかりやすかった」「説明がなくても、パソコンを使うと理解できた」「図形が動くのでわかりやすかった」と答えた生徒が多く、理解が深まったと考える。

(ウ) 学習ソフトの活用に関する評価    

課題の追究の場面では、生徒が操作しながら距離の比較ができるように目盛りや配色をほどこした自作学習ソフトを開発し、活用させた。授業後の感想に、パソコンを利用して2つの円の動きを見ることができたことで「黒板で出来ないことがパソコンで出来る」と答えた生徒が多かった。また、「自分の進度に合わせられる」が半数以上あり、従来の授業より効率的に学習が進められたと考える。  

(エ) 考察

 学習ソフトを活用した授業設計にあたっては、まず指導目標と生徒の実態に基づいた指導内容の検討から入った。このことは、学習ソフトの内容や具体的な指導方法とも関連し、研究を円滑に運ぶ上で大変役に立った。

指導方法で特に配慮した点は以下のとおりである。

@問題解決の場合、いつもパソコンを利用させるのではなく、パソコンの特性を考慮し、必要に応じ利用させる。

A学習プリントで、内接や外接の具体例から、2つの円の半径と中心間距離の関係式が導き出せるようにした。

 B生徒の発表や話し合い等の交流や表現活動の場面を設定する。

C授業の流れがわかるように、ホワイトボードに結果を図示しながら進む。

D教材の提示は、ビデオプロジェクターを利用し、スクリーンに映す。

 E二人で1台使用するので、学力差が大きくならないように組み合わせる。

 本時指導において、課題追究の場面でA、表現活動の場面でBを配慮したことは、主体的な活動を支援するのに大変役に立った。本時の市販学習ソフトは、技術的に大変よくできていて、授業にそのまま活用することもできるが、効果を高めるために次の機能を持った自作学習ソフトを開発した。

○学習に最小限必要な内容を持ったものにする。

○キーコマンドを設け、学習の制御ができるようにする。

 ○中心線の目盛りや長さ等のヒントが表示できるようにする。

 また、生徒の習得事項を整理するための学習プリントも作成した。

 昨年度の反省で、ネットワークシステムを使用し画面転送をした場合、生徒用パソコン画面に無条件に割り込み、生徒の学習を中断させることがあったり、生徒が各自のパソコン画面と比較ができないことがあった。そこで本年度は、画面転送をせず、ビデオプロジェクターで教師用パソコンの画面を映した。このことは、生徒の学習を中断させることなく、画面の比較も容易にできるが、生徒用パソコンの制御ができなかった。発表時のネットワークシステムの有効な利用法や誤答率の分析も今後の課題である。